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PROJECT 7
飛翔体を用いた宇宙観測
■宇宙からのX線、ガンマ線、反物質粒子を捉える■

気球、ロケット、科学衛星などで大気圏外(あるいは大気圏上層部)に達すると、大気に遮られて地上からは得られなかった、新しい宇宙情報をえることが可能になります。我々は2つのサブプロジェクトを擁し、研究を進めています。

(サブプロジェクト1) 衛星による宇宙X線・ガンマ線の観測

宇宙からのX線やガンマ線は、大気に吸収されてしまうため、地上からは捉えることができません。 しかし人工衛星などを用いて大気圏外に出ると、ガスを吸い込むブラックホール、高速回転するパルサー、高速で膨張する超新星残骸、活動銀河核、銀河団の熱いコロナ、ガンマ線バーストなどからのX線やガンマ線を捉えることができ、可視光では得られない貴重な宇宙の姿を知ることができます。私たちは硬X線検出器と呼ばれる観測装置を開発し、これを2005年に打ち上げられた「すざく」衛星(図1)に載せ、宇宙からのX線を研究しています。ブラックホールに吸い込まれる物質の流れを解明し、そこでの一般相対論の効果を探るとともに、マグネターと呼ばれる超強磁場の天体から強い硬X線を検出し、白色わい星の質量の精密決定に成功し、ある種の銀河団では未知の超高温ガスを検出するなど、多くの成果を挙げています。ガンマ線領域では、2008年6月に日米伊などの協力で打ち上げられた、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡のデータを利用して、銀河系における宇宙線の分布などを明らかにしつつあります。さらに2013年度に打上げ予定の「すざく」の後継機 ASTRO-H衛星に向け、装置開発を進めています。

飛翔体を用いた宇宙観測 図1
図1::M5ロケットによるX線衛星「すざく」の打ち上げ。2005年7月10日、 鹿児島県にある、JAXA内之浦宇宙空間観測所より。

(サブプロジェクト2) 気球観測による宇宙の反物質探査

地球には宇宙線が降り注いでおり、その中にはわずかながら、宇宙線と星間ガスとの衝突で作られた高エネルギーの反陽子が含まれています。しかし暗黒物質の対消滅や原始ブラックホールの蒸発が起きると、より低エネルギーの反陽子が作られると予想されます。私たちは、超伝導を利用した素粒子検出器を気球に載せ、1993年から、地磁気の影響の弱いカナダなどで、反陽子の観測を続けてきました。最近では南極大陸で周極風を利用し、2回の長時間飛翔を行なっています(図2)。すでに総計3000個を越す反陽子の検出に成功しており、それらの中に、宇宙線と星間ガスの衝突で説明できない成分が含まれているか、探索を続けています。あわせて反ヘリウム原子核(これは宇宙線からは生成されない)も探査しており、厳しい上限値を導くことに成功しています。

飛翔体を用いた宇宙観測 図2
図2::2007年12月23日、南極マクマード基地の近くから行なわれた、BESS Polar-IIの放球。