観測成果2

渦状腕を通過するガスの相変化の発見

位置-速度図上の各点の座標値は、幾何学的な考察によって銀河系内の位置座標に変換できます。下の図は、銀河系を上(?)から見た図で、炭素原子/一酸化炭素分子放射強度比の高い領域が示されています。放射強度比が高い領域は、渦状腕上ではなくそれらに隣接するように分布する事が分かります。銀河系はこの図上で時計回りに回転しているので、これらの領域は渦状腕の上流方向に位置する事になります。一般に重力ポテンシャルの極小点である渦状腕をガスが通過する際、主に原子相であった拡散ガス雲が集結し、星形成の母胎である星間分子雲という形態に数百万年の時間をかけて進化すると考えられています。私たちの結果は、その渦状腕通過に伴う原子→分子相変化の過程、つまり渦状腕上での星間分子雲形成の過程を、初めて観測によって捉えたものです。

炭素原子/一酸化炭素放射強度比の高い領域の銀河系内空間分布(赤線)。銀河系の渦状腕構造は青線で示されている。黒丸は大質量形成領域。

 

超高速度成分の検出

M16/M17分子雲は、活発な大質量星形成領域の付随した巨大分子雲です。これらの分子雲は、一酸化炭素のスペクトル輝線の広域観測により、直径約200パーセクのスーパーシェル構造の端に位置する事が分かっています。私たちは、可搬型サブミリ波望遠鏡によってM17方向の長時間積分を行い、良質な炭素原子スペクトルを取得しました。その結果、下図右に示すような速度幅40km/s程度の超高速成分を検出しました。この成分は、一酸化炭素のスペクトルでは確認できず、極めて高い炭素原子/一酸化炭素分子存在比を有する成分と考えられます。これは、過去の超新星爆発によって、スーパーシェル形成とともに掃き集められた拡散ガスと考えられ、この後新しい分子雲を形成する「種」を見ているものと考えられます。

(左)大質量星形成領域M16/M17領域方向の一酸化炭素分子の広域分布(T.M. Dame博士らによる)。M16/M17領域は直径約200パーセクのスーパーシェル構造の端に位置する。(右)M17方向の炭素原子サブミリ波スペクトル。速度幅40km/s程度の超高速成分が見えている。