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2014年
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* バリオン・光子流体の揺らぎの音響振動が減衰する際、そのエネルギー散逸によって宇宙の
温度が微上昇することから、小スケールの密度揺らぎの振幅に対して、上限が得られることを
明らかにしました。
* 重力波データ解析をめざして、ノイズの持つ非ガウス統計を以下に取り扱うか、研究を進めて
います。
2013年
* 熱浴中を振動するスカラー場の挙動にゲージ場との相互作用がもたらす影響を、非平衡
系の熱場の理論を用いて解析し、揺動散逸関係が成り立つことを確認しました。
* 大振幅密度揺らぎが初期宇宙に存在すると、それがハッブル半径に入ってきたとき原始
ブラックホールが形成されます。さまざまなプロファイルを持つ揺らぎの初期条件を5つのパラメタ
で特徴付け、ブラックホール形成を解析した結果、形成条件は二つの物理量でのみ決まること
を明らかにしました。
* ヒッグス場によってインフレーションを起こす機構はいくつかありますが、その中でGイン
フレーションは、最近のBICEP2の観測をよく再現するものの、再加熱時に不安定性を生じること
が知られていました。私たちは、この不安定性は運動項の高次作用によって取り除けることを
示しました。
* 曲率項の2次作用によってインフレーションを起こすモデルの超重力版では、再加熱率
が場所によって異なり、それによって揺らぎが生成する変調再加熱機構が働き得ることを
示しました。そこから生成する揺らぎの非ガウス性を評価した。その結果はプランクの観測とよく
一致していることが、その後明らかになりました。
2012年
* 最近素粒子実験において既知の3世代以外にステライルニュートリノと呼ばれる新たな
ニュートリノ種が存在することが示唆されています。私たちは、軽いステライルニュートリノ
を含んだ宇宙の進化を考察し、一般相対論のもとでは密度ゆらぎが十分成長できず、大規模
構造の観測と矛盾してしまうが、f(R)重力を考えれば、数電子ボルト程度の質量を持つ
ステライルニュートリノは、観測的にも良い影響を及ぼすことを見いだしました。このことは、
もし、ステライルニュートリノが本当に存在することが実験的に確定したら、宇宙を支配する重力
理論に対して大きな情報をもたらすことを示しているのです。東京大学によるプレスリリース
* 超重力理論では全てのスカラー場が少なくとも重力の強さで相互作用します。特に、インフレーション
を起こすポテンシャルエネルギーは、他の場に対してハッブルパラメタ程度の質量を与えることが
可能なので、それによって宇宙の相転移の新しいメカニズムを与えることができます。私たちは
そのような場合のモノポール生成を考察し、観測にかかる程度残すのは極めて難しいことを
示しました。一方、コズミックストリングについては、ループが生成する重力波がミリ秒パルサーの観測
によって制限されるため、ストリングの線密度に対して強い制限が得られていますが、相転移の
このような新しいメカニズムを考えることによって、この制限を逃れることが可能であることを
示しました。
* LHCによるヒッグス場の発見を見越して、標準理論のヒッグス場自体がインフレーションを引き起こした
可能性が脚光を浴びていますが、私たちは、一般G-インフレーションによってこれを解析し、今まで
知られていた3つのヒッグスインフレーション機構のほかに、さらに2通りの方法があることを発見し
ました。一般G-インフレーションの方法によってこれら全てのインフレーションモデルをシームレス
に解析することができるので、実験データや観測データによってどれが正しいのか、あるいは全て
間違っているのか、統一的な判定をすることが可能になりました。
2011年
* ガリレオン型の相互作用は、G-インフレーションという新しいインフレーションモデルを
与えるだけでなく、スカラー場のポテンシャルエネルギーによって起こる従来のインフレー
ションモデルに対しても、高階微分相互作用により、スカラー場の運動方程式に新たな摩擦
項をもたらします。われわれは、それによって従来インフレーションが不可能であった場合でも
インフレーションが起こりえること、特に素粒子の標準模型におけるヒッグス場さえ宇宙論的に
無矛盾な形でインフレーションを起こすことができることを示しました。そのようなHiggsG-inflation
モデルは、密度ゆらぎのスペクトルとテンソルゆらぎの振幅に対して、不定性のない予言をする
ため、近い将来観測的にこれを検証することが可能になります。
本研究には、2014年3月に日本物理学会論文賞が授与されました。
* このように、G-インフレーションには、スカラー場のポテンシャルエネルギーによってインフ
レーションが起こる場合、運動項によってインフレーションが起こる場合、と両極端が考えられ
ますが、われわれは、このインフレーションモデルにおいて生じる密度ゆらぎの統計分布のガウス
分布からのズレ、いわゆるnon-Gaussianityを、そのいずれにも一般的に適用できるような形で、
一般的に求めました。
* われわれの宇宙が将来どのような運命を遂げるかは、ダークエネルギーがどのように進化
するかに大きく依存します。ダークエネルギーがf(R)重力理論によって実効的に記述される
理論を考えた場合、その状態方程式は将来に亘って無限に振動し、徐々にドジッター宇宙に
近づいていくことを示しました。
* コールドダークマターの有力候補の一つに、アキシオンと呼ばれる軽粒子があります。これは
強い相互作用のCP問題を解決するために導入された素粒子ですが、大域的ストリングの周りの
擬南部ゴールドストンモードに相当するので、ストリングの振動に伴って生成します。私たちは
詳細な数値計算によって、膨張宇宙でその時間発展を追い、生成するアキシオンの量と
エネルギー分布を求め、コールドダークマターとなるための条件を明らかにしました。
* ガリレオンをさらに拡張すると、場の方程式が2階微分までで表され、したがってゴーストという
負の運動項を持った邪魔者がない最も一般的なラグランジアンを定義することができます。
そのような理論は、実はホルンデスキーによって1970年代に発見された理論と見かけは全く
違うものの、同等であることを示しました。そしてそれに基づいたインフレーションモデルを提唱し、
一般 G-インフレーションと名付けました。この理論はこれまで知られている単一場インフレーション
モデルを全て包含するものであり、それによって統一的な解析が可能になりました。
* 宇宙構造の起源になった密度ゆらぎと共に、重力波モードに相当するテンソルゆらぎも将来
重要な観測量になると期待されています。私たちは、一般 G-インフレーションの枠内で、
テンソルゆらぎの三点相関を計算し、一般相対論に基づいた理論には存在しない、新たな
タイプの相関を発見しました。
* 宇宙構造のもとになった曲率ゆらぎの断熱モードは、インフレーション中に一旦生成すると
波長がハッブル長より長い間は一定値を保ち、決して減衰しないことが知られています。
私たちは、ゆらぎが二つ以上の等曲率モードからできる場合は、長波長ゆらぎの振幅が
成長後減衰するような解も作ることができることを示しました。
2010年
* 最近ガリレオンという新しい対称性を持った高階微分理論が提唱されました。これは、
スカラー場の微分が定数だけずれても不変になるような高階微分作用を持った理論で、
作用が高階微分を持っているにもかかわらず、得られる運動方程式は二回微分までに
しか依存しないという著しい特徴を持っています。われわれはこのスカラー場を使って
新しいインフレーションモデルを構築し、G-インフレーションと名付けました。大振幅の
テンソルゆらぎが容易に得られるのが一つの特徴です。
* 宇宙が通常の物質で満たされていれば、物質間に働く万有引力によって宇宙膨張は
減速されるはずです。ところが、近年の観測によって現在の宇宙は加速的に膨張して
いることが明らかになっています。その原因は、「負の圧力」を持つ未知のエネルギーが
宇宙を満たしていることに寄るのかもしれないし、また、アインシュタインの一般相対性理論
が修正を余儀なくされているからかもしれません。 私たちは、後者の例であるf(R)重力理論
すなわち、重力の作用がリッチスカラーの線形関数ではなく、f(R)という関数形を持っている
場合に、一様等方宇宙の進化とその周りの線形ゆらぎの発展を解析しました。その結果、
アインシュタイン方程式に現れる付加項をダークエネルギーと読み替えた際、その状態方程式
が特異な振る舞いをすること、また一般相対性理論の下では定数値をとる、密度ゆらぎの
発展指数γが時間と共に一旦減少し、その後増加に転じることを見いだしました。
また、この理論では、小スケールの密度ゆらぎが観測値と比べて大きくなり過ぎる、という危険
がありますが、これはニュートリノが0.5eV程度の微少な質量を持っていれば、ニュートリノの
拡散による小スケール密度ゆらぎの減衰によって打ち消すことができることを示しました。
* 密度ゆらぎの生成理論において、ゆらぎの波としての伝播速度を与える音速は、放射優勢宇宙
では光速の3-1/2倍ですが、非正準運動項を持つスカラー場の場合、さまざまな値を取り得ます。
本研究では、インフレーション中にある種の相転移が起こって音速が変化した場合、ゆらぎの
スペクトルがどのように変調を受けるか、さまざまな場合について解析し、スペクトルに振動型の
変調やうなりが生じ得ることを示しました。
* 超弦理論に基づいたインフレーションモデルとして、余剰次元内のブレーンの運動方向を
インフレーションを起こすスカラー場と同定する模型が提唱されています。このようなモデルでは、
インフラトンが幾何学的な自由度として捉えられるため、対応するスカラー場は一定の範囲の値
しか取れません。本研究では、このようにスカラー場の変域が限られている場合のゆらぎの生成を
Stochastic inflationの手法で解析し、適切な境界条件を満たしたスカラー場の確率分布関数を
求める方法を与えました。
2009年
* 宇宙初期にあるスケールに大きな密度ゆらぎが生成していたとすると、そのスケールが地平線に
入ってきたときにブラックホールが形成されます。その質量はその当時の地平線と同程度になるので、
密度ゆらぎのスペクトルの形状に応じて、さまざまな質量のブラックホール(初期宇宙にできるので、
原始ブラックホールと呼ばれる)が形成可能です。ブラックホールはホーキング放射によって、質量に
反比例した温度の熱放射を放出し、質量の3乗に比例した寿命で蒸発します。質量1014.5g以下の
原始ブラックホールは今日までに蒸発して消えてしまっていることになります。このようなブラックホール
からのホーキング放射は、初期宇宙の元素合成に影響を与えたり、ガンマ線背景放射に寄与したりする
ことになります。一方、それより重いブラックホールはその周りへの物質降着や重力レンズ効果などによって
存在量が制限されます。わたしたちは、すべての質量域に及ぶ原始ブラックホールの存在量について、
あらゆる観点から制限を課しました。これは日英協力事業「ブラックホール等で探る加速膨張宇宙の物理」
(日本側代表:横山順一、英国側代表:B.J. Carr)によって完成した、5年越しの研究成果です。
* 前年度までに、宇宙背景放射の温度ゆらぎの角度パワースペクトルから初期ゆらぎのパワースペクトルを
再構築する方法を開発・実行し、べき乗則からのズレを示唆する結果を得てきましたが、本年度は偏光の
データも使用して、マルコフチェインモンテカルロ法によって初期ゆらぎのスペクトル形を解析しました。
その結果、700メガパーセクに対応するスケールにべき乗則からの大きなズレが存在することを確認しました。
その統計的有意性を初めて正確に求め、4σ以上の大きな有意性を持っていることを明らかにしました。
これがこの波長に偶然現れる確率は一万分の一以下、波長に寄らず起こる確率も千分の一以下です。
* 宇宙背景放射の非等方性から、宇宙の晴れ上がり時から現在までに微細構造定数がどの程度
変化し得るか、その上限を求めました。ここではある種のストリングモデルを用いることにより、
陽子・電子の質量比の変化も併せて取り入れることによって、強い制限が得られることを示しました。
また、Singular value decomposition法によってパラメタ間の縮退がどのように現れるかを明らかにしました。
* 超弦理論や超重力理論には、モジュライと呼ばれる、重力相互作用しかせず長寿命なスカラー場が
存在し、元素合成に影響することが知られていましたが、本研究では、モジュライが十分重くて元素合成
前に崩壊する場合であっても、モジュライが作る等曲率ゆらぎから強い制限が課される場合があることを
示しました。これは日仏協力事業による研究です。
* 初期宇宙のインフレーション中に特定のスケールに大きな振幅を持った密度ゆらぎが生成すると、
そのスケールが後に地平線に入ったときに、そのときの地平線内の質量と同程度の質量の原始
ブラックホールが形成されます。一方、大振幅の密度ゆらぎがあると、ゆらぎ同士がぶつかる際に
重力波が生成します。私たちはこのような重力波のスペクトルを詳細に計算することにより、原始
ブラックホールの質量と重力波が最大になる周波数には単純な比例関係があることを見いだしました。
1020〜1026グラムの原始ブラックホールはダークマターの候補となっていますが、このようなブラックホール
形成に伴って生成する重力波は、宇宙重力波レーザー干渉計DECIGOによって容易に検出できること
を示しました。ブラックホールダークマターの検証がDECIGOの最初の科学的成果になることでしょう。
私たちはさらに、ミリ秒パルサーによる重力波バックグラウンドの制限に矛盾することから、超高輝度
X線源の起源とされる中間質量ブラックホールは、原始ブラックホールではあり得ないことを示しました。
* 素粒子の標準理論に超対称性を入れて拡張した最小超対称的標準理論でインフレーションを起こせる、
という提案がなされています。この理論に現れるスカラー場のポテンシャルに鞍点があり、宇宙が一様静的に
その値を取れば、そのポテンシャルエネルギーによって指数関数的膨張が起こせるからです。私たちは、
熱的ゆらぎ、量子的ゆらぎを持った現実的な宇宙の初期状態を考え、このようなインフレーションは初期条件に
よほどの微調整がされない限り起こらないこと、それを起こすためには、そのインフレーション前の適切な時期
に別のインフレーションが起こらなければならないこと、要するにこのモデルはダメであること、を示しました。