平成17年6月10日

 

富士山頂サブミリ波望遠鏡の閉鎖について

 

                    東京大学大学院理学系研究科

                    物理学専攻・ビッグバン宇宙研究センター

                       山本 智

 

 

 富士山頂サブミリ波望遠鏡は、ビッグバン宇宙研究センターのプロジェクトとして7年間にわたって運用してきましたが、平成17年夏をもって閉鎖することにしました。閉鎖に至る経緯は以下のとおりです。

 

 気象庁東京管区気象台富士山測候所は2004年10月から非常駐化し、冬季は無人となりました。富士山頂サブミリ波望遠鏡は測候所から電気の供給を受けているため、非常駐化によりそのままでは運用できないことになりました。そこで、6600 Vの商用電源の送電は東京大学の責任と管理の下で行うこととなり、そのための遠隔制御設備の設置や許認可申請などを行ない、実際に送電を行いました。しかし、昨年10月に上陸した2つの台風や秋雨前線による集中豪雨のたびごとに山頂庁舎と送電線に落雷を受け、遠隔制御設備やアレスタに甚大な被害を受けました。そのため、10月末の時点で本年度の科学運用を断念せざるを得ない結果となりました。この経験を踏まえ、富士山頂サブミリ波望遠鏡への電気供給を我々の小さなグループだけで責任をもって行うことは非常に難しいという判断に達し、望遠鏡の閉鎖を決断しました。

 

富士山頂サブミリ波望遠鏡は1998年7月に設置され、7年間にわたって観測を続けてきました。この間、中性炭素原子のサブミリ波輝線の観測において、圧倒的な規模の観測を実現し、分子雲の形成過程に観測的に切り込むなどの先進的成果をあげました。わが国のサブミリ波天文学を本格的にスタートさせた意義は大きく、それはASTE、ALMAの実現を支えました。そして、この望遠鏡を用いた観測から7名が博士の学位を取得しました。その意味で、富士山頂サブミリ波望遠鏡はその歴史的使命を十分果たしたと確信します。富士山頂サブミリ波望遠鏡は、観測を続ければ面白い科学的成果が得られる望遠鏡です。しかし、上に述べたように、計画当初の目標は、グループのメンバーの献身的な努力のおかげで、すでに達成することができました。今後は、これまでの成果をまとめるとともに、それを足がかりに、大口径望遠鏡やALMAでの中性炭素原子の高分解能観測や、テラヘルツ帯における観測技術の開拓への歩みを速めていきたいと思っています。

 

 最後に、富士山頂サブミリ波望遠鏡の運営の建設と運用にかかわったすべての皆様方に心から感謝いたします。また、望遠鏡の運営を支えていただいた、東京大学大学院理学系研究科ビッグバン宇宙研究センター、東京大学大学院理学系研究科、気象庁東京管区気象台富士山測候所、浅間大社、富士山運搬組合をはじめとする多くの皆様に御礼申し上げます。