山本研究室の紹介

はじめに

 私たちの銀河は一千億にのぼる恒星からなっています。 それとともに、星と星との間の空間にはガスと塵からなる希薄な「雲」が存在しています。 星間分子雲と呼ばれるものです。 星間分子雲はやがては自己重力で収縮して密度をあげ、中心部分で新しい恒星を誕生させます。 星形成のプロセスは、現代天体物理学の主要な研究課題として、 その全容解明に向けて活発な研究が世界的に展開されています。 その中心となっているのがミリ波、サブミリ波観測です。 星間分子雲は温度が10 K ないし100 K 程度と非常に低いので、可視光で直接見ることはできません。 もっとエネルギーの低い光子である電波を観測することによって、はじめてその姿を捕らえることができるのです。
 私たちの研究室では、富士山頂にわが国はじめての サブミリ波望遠鏡(富士山頂サブミリ波望遠鏡) を設置して、1998年から2005年までの間、星形成の初期過程である星間分子雲の形成、進化を研究してきました。 現在は、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45 m ミリ波望遠鏡、IRAM 30 m ミリ波望遠鏡をはじめとする国内外の大口径電波望遠鏡を用いて、星間分子雲から星形成に至る物理過程と化学進化を詳細に研究しています(星形成領域の観測研究)。 また、同時に、大口径サブミリ波望遠鏡によるテラヘルツ帯観測を目指して、テラヘルツ帯の高感度受信機の開発に取り組んでいます(THz帯HEB素子開発)。 テラヘルツ帯の観測、および、2012年に本格運用が始まるALMA (Atacama Large Millimeter / submillimeter Array)望遠鏡による高感度高分解能サブミリ波観測によって、星形成から惑星系形成に至る物理過程と物質進化に切り込みたいと考えています。

ミリ波、サブミリ波、テラヘルツ波とは?

 これらは電波の周波数領域を言い表す慣用的表現です。 ミリ波は波長が1 cm から1 mm 程度の電波を指します。周波数にすると、30 GHz から300 GHz です。数多くの分子のスペクトル線があり、星間分子雲の化学組成を把握するには絶好の周波数帯域です。電波の中では比較的よく観測されている領域です。
 一方、サブミリ波は波長が1 mm から0.1 mm(周波数にすると300 GHz から3 THz)を指します。サブミリ波はテラヘルツ帯にあたることからテラヘルツ波とも言われます (テラヘルツ波は1THz以上を指すこともあります)。 ちょうど、電波と赤外線の中間にあたり、これまで宇宙観測における未開拓の波長領域であったところです。この波長領域には基本的な原子や分子のスペクトル線が存在しています。 それらは、ミリ波帯のスペクトル線に比べて、より温度、密度の高い状態−即ち原始星近傍―から選択的に放射されるので、それらを観測により星形成、惑星系形成の核心部に切り込むことができます。

星間分子雲から星形成に至る進化

 星形成は、星間分子雲の中にある高密度コアが自己重力で収縮することからはじまります。 高密度コアには微量ではありますが、アンモニア、シアン化水素、シアノアセチレンなど様々な星間分子が含まれています。 これまでの研究により、高密度コアから原始星の誕生に至る過程でそれらの化学組成が系統的に変化することを明らかにしてきました。 今では、この化学進化の考え方は、高密度コアの「年齢」を測るものさしとして広く利用されています。 私たちは、この成果を発展させ、星形成領域における化学組成の多様性とその起源の理解に取り組んでいます。 化学組成という新しい視点から星形成過程の多様性に迫ろうと考えています。

星形成から惑星系形成に至る進化

 星形成の次は惑星系形成です。 それには電波のなかでも周波数が高いサブミリ波、テラヘルツ帯の観測が有効です。私たちは2つの方法で、星形成から惑星系形成にいたる物質進化にアプローチしようと考えています。
 一つは、テラヘルツ帯の観測の開拓です。テラヘルツ帯は電波と遠赤外線領域との境にあたり、電波科学のフロンティアです。そこには基本的な原子、イオンのスペクトル線があります。私たちはなかでも窒素イオン(N+)のスペクトル線(1.47 THz)、CH のスペクトル線(1.48 THz)、HD2+(1.48 THz)、H2D+(1.37 THz) のスペクトル線の観測を目指しています。窒素イオンは水素が電離しているプラズマ雲だけに存在できるので、原始星近傍のプラズマ領域を選択的に調べることができます。 また、CH は星形成から惑星系形成に至る有機分子の形成・進化過程に深く関わる重要な分子です。これらの観測のためにテラヘルツ帯で高感度に動作する素子―超伝導ホットエレクトロン・ボロメーターミクサー素子―を開発しています。すでに 0.8 THzでの開発に成功し、1.4 THz領域での実験を始めています。上記のスペクトル線はアタカマ砂漠の観測サイト(標高 5000 m)から観測できるので、早期に観測を実現したいと考えています。
 もう一つはALMA (Atacama Large Millimeter / submillimeter Array)です。 ALMAは、12 m 望遠鏡 54 素子と7 m 望遠鏡 12 素子からなる巨大干渉計を、チリ共和国のアタカマ砂漠の高地(標高 5000 m)に建設する国際プロジェクトで、わが国も国立天文台を中心として、米国、欧州に並ぶ第三のパートナーとして参加しています。この望遠鏡は地上における究極の電波望遠鏡と言えるもので、解像度、感度の点で、現存の装置を圧倒的に上回るものです。 ALMAは順調に建設が進行しており、2010年に部分運用、2012年から本格運用が予定されています。

大学院での研究

 私たちの研究室では、観測研究とともに「観測装置の開発」を ひとつのポリシーとしています。新しい技術や考え方を積極的に取り入れ、 ユニークな観測装置を作り上げることが、独創的研究の第一歩だと考えるからです。 事実、富士山頂サブミリ波望遠鏡もそのような考えのもとで作り上げたものですし、 テラヘルツ帯の受信機開発もそのような動機から取り組んでいます。
 そのような理由から、修士課程においては、装置開発と観測研究の両方に触れてもらうことにしています。博士課程においては、それぞれの興味に従い、より絞り込んで研究を行います。 卒業生の多くは、大学、研究所の教員、研究員や企業の研究者などとして活躍しています。

研究室紹介ビデオ

 理学部HP より



研究室紹介ファイル

山本研究室紹介(2012年度版)   (PDF file: 15.6 MB)

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