超新星残骸

進化

超新星が爆発してから10年位経って主な放射性元素の崩壊もほぼ済んで可視光や赤外線で暗くなった頃から残骸とみなされる。このときには爆発で飛び散った物質は自由膨張をしている。その後、周りにある物質(星周物質)によって減速され始める。星周物質中に衝撃波が発生し、それとほぼ同時に爆発物質中にも内向きに伝播する衝撃波が発生する。衝撃波によって圧縮加熱された物質からはX線等の高エネルギー光子が放射される。しかし、この放射によって失われるエネルギーは大したことはないので、圧縮加熱領域の進化はほぼ断熱的である。この状態は環境にもよるが数百年から千年程度続く。内向きの衝撃波が中心に到達すると中心付近は低密度高温の状態になる。外向きの衝撃波は相変わらず存在し、膨張を続ける。衝撃波の内部はX線を放射しつつもほぼ断熱的に進化する。膨張を続けると徐々に衝撃波面の直近の圧縮されたガスからのX線放射によって失われるエネルギーが衝撃波の伝播に影響を与え始める。この時期も環境に依存するが、一声10,000年くらいである。その後、衝撃波面のすぐ後ろにガスは掃き寄せられ非常に密度が濃くなる。その内側には高温で低密度のガスがあり、その圧力によって密度の濃い球殻状のガスが押されている。この球殻状のガスの速度が、星間ガスの乱流の速度と同じくらいになったところで超新星残骸は膨張を終えて、星間ガスと混ざっていく。ここまで、大体100万年かかる。

非平衡プラズマとしての超新星残骸

超新星残骸は非常に薄い星周物質の中へ膨張していき薄い星周物質を圧縮加熱するので、高温で薄いプラズマの実験場でもある。実際、外向きと内向きの衝撃波が両方存在するような若い超新星残骸では衝撃波によって加熱された領域ではイオン化だけが進み再結合はほとんど起こっていないし、イオンは電子よりも非常に温度が高くなっていると考えられている。

Ia型超新星の若い残骸

Ia型超新星

Ia型超新星は連星系中にある白色矮星が空いての星からガスをもらって太っていき限界質量(太陽質量のおよそ1.4倍)に達したところで炭素の核融合反応が中心付近で暴走してその燃焼波が星全体に及んで爆発にいたると考えられている。この型の超新星は限界質量という決まった質量の星の爆発なので、どれをとっても良く似ている。加えて、他の超新星に比べて明るいので、標準光源として使われている。また、核融合反応の結果、星のおよそ半分が鉄になって飛び散るので銀河の主要な鉄の供給源であり、銀河において鉄がどのように増えていったのかを理解する上で重要な天体である。このように天文学的に重要な天体であるが、どのような連星系にある白色矮星が爆発したかという観測的な証拠がない。

若いIa型超新星中の伴星探し

そこで、私たちの研究室では特にIa型超新星の若い残骸でのイオン化状態の進化を詳しく調べることで残骸のほぼ中心に未だ残っていると考えられている爆発の引き金を引いた相手の星のスペクトルに残骸中の中性の鉄がどのくらい顕著な吸収線を形成するかを調べている(Ozaki 2005)。多くの中性の鉄が残骸に残っていれば、それによって中心波長より青い方だけ吸収された吸収線が残骸の中心にある星のスペクトルには見えるはずである。この星の光を吸収する中性の鉄は観測者の方に光速の10分の1から100分の1の速度で運動しているのでドップラー効果によってこのような吸収線を形成する。このことを利用して、天球上で残骸の中心付近にある星のスペクトルを取ることで目当ての星を見つける観測を提案している(もちろん、観測家と共同で)。実際には波長 371.99と385.99 nmにある基底状態からの遷移に伴う吸収線を観測する。波長が短いのでかなり厳しい観測になるかもしれない。観測対象になる天体としてはIa型超新星である可能性が非常に高いTychoの超新星残骸やKeplerの超新星残骸等が挙げられる。中性の鉄は超新星残骸の年齢が高くなると減っていくのでなるべく若い方が良い。Tychoでは2004年10月に残骸中心付近の星の運動の観測から相手の星を同定したとする研究が発表された(Ruiz-Lapuente et al. 2004)。この星が相手の星である可能性はかなり高いが間接証拠なので、私たちが提案した方法で確認する必要があると考えている。