超新星外層の加速

Ic型超新星

超新星の中でも、観測されるスペクトルに水素の線もヘリウムの線も見えないものはIc型に分類される。これらの元素が見えないのは水素の外層とヘリウムの外層を超新星爆発を起こす前に放出してしまった星の爆発を見ているからだと考えられている。このような星は質量は太陽より数倍から十数倍大きいが、サイズは太陽と同じかやや小さい。大質量星を起源とする他の超新星の親星と比べると半径が10分の1以下の小さい星の爆発と言える。

外層の加速

このように半径の小さい星が爆発すると衝撃波が表面を通過する際に非常に大きな圧力で表面付近のガスを加速する。圧力は単位体積当たりのエネルギーに比例する量なので、衝撃波の後ろの圧力がおおざっぱには一定となることを考慮すると、同じエネルギーの爆発であれば半径の小さな星の方が表面での衝撃波の圧力は大きくなる。従って、 水素の外層とヘリウムの外層を 失い、表面が主に酸素と炭素でできた外層が他の超新星より高速にまで加速されることになる。

軽元素合成

Be, Bなどの軽元素は水素やヘリウムを成分とする宇宙線が星間ガスに含まれるC, O等の元素を壊すことで合成されると考えられてきた。しかし、最近の金属欠乏星でのBeと重元素の組成比の相関を見ると、C, Oを主成分とする宇宙線が星間ガスの主成分である水素やヘリウムと衝突して壊れることで出来る方が都合が良いと考えられるようになった。上で述べたIc型超新星は爆発時にまさにC, Oを加速して宇宙線を作り出している。そこで、我々 (Nakamura & Shigeyama 2004) は詳しく観測されているIc型超新星の爆発時の外層の加速の様子を相対論的流体力学数値計算コードによって球対称な星の爆発の場合について調べた。その計算結果で得られたC, Oが星間ガスと相互作用する様子を輸送方程式を計算し、Li, Be, Bの合成量を求めた。その結果、SN 1998bwのように爆発エネルギーが一桁以上大きな超新星でしか十分な量のBe, Bは作られないことが分かった。銀河系ハロー全体にあるBe, Bの量を説明するにはこのような超新星が現在の観測から評価される頻度の700倍くらいの頻度でハローでは爆発していた必要がある。

非球対称性

球対称なIc型超新星の爆発による外層の加速を数値計算している際、爆発が球対称からずれていればより効率的に外層が加速されることに気がついたので、現在2次元軸対称な爆発について同様な計算を行い加速の様子を調べている。

自己相似解

星の表面付近のガスの密度分布は表面からの距離の冪乗則で表される。このガス中を伝わり表面に抜ける強い衝撃波の伝播は非相対論的な取り扱いで A. Sakurai (1960)によって自己相似解で記述されることが示されていた。我々 (Nakayama & Shigeyama 2005) は衝撃波の伝播速度が非常に光速に近い場合について同じ問題がやはり自己相似解で記述されることを超相対論的な近似のもとに示した。この解によって、加速の様子が超相対論的な場合と非相対論的な場合でどのように違うかを明らかにした。

星周物質との相互作用

このように相対論的に加速された外層は星が超新星爆発前に放出したガス(星周物質)と衝突する。すると、星周物質中に衝撃波が発生し、星周物質と星の外層の境界に接触不連続面、星の外層にも衝撃波が発生する。この状況で衝撃波が時間の関数としてどのように進化するかを今調べている。 星周物質中 衝撃波 は SN 1998bwの場合、ひょっとすると電波観測で推察されたLorentz factor 2くらいの衝撃波かもしれず、SN 1998bwの爆発とどのように関連づけられるかを研究している。