Low-α 星

星の元素組成比で良く議論の対象になる重要なものにC, O, Mg, Si, S等の元素とFeの組成比がある。前者はHe原子核(α粒子)が複数くっついたものでα元素と呼ばれる。その供給源は大質量星を起源とする超新星と考えられている。一方、Feはこのような超新星よりもIa型超新星から供給されると考えられている。Ia型超新星とは 連星系中に存在する白色矮星が相手の星からガスをもらって太っていき限界質量に達して核爆発する と考えられている超新星である。大質量星の寿命は短く、白色矮星が太るのには時間がかかるので、銀河初期に生まれた星はα元素/Feの比は大きく、Ia型超新星が爆発しだしてから生まれた星はこの比が小さくなる。つまり、古い星=金属欠乏星(重元素を少量しか持たない星)は大きな α元素/Fe を持ち、重元素をたくさん持った太陽のような星はこの比が低い。しかし、実際の観測ではそんなに重元素を持っていないのにこの比がやたらに低い星がある。それをここではLow-α(金属欠乏)星と呼ぶ。

銀河系にあるLow-α金属欠乏星

銀河系にあるLow-α星には不思議な特徴があることに私たちは気がついた(Shigeyama & Tsujimoto 2003)。今まで観測されたLow-α金属欠乏星の全て(ほとんど?)が大きな表面重力を持っている。これはこのような星がまだ主系列にとどまっている星であることを意味すると同時に表面を外部から汚染されると敏感に表面組成が変わる。つまり、表面の対流層が浅いので混ぜて薄めて汚れを目立たなくすることができにくいのだ。 そして、Cr, Mn, ZnとFeの比が金属欠乏星の平均より低いことがわかった。Cr, Mn, ZnというのはFeに比べて固体になりにくい元素である。 ここまで材料が揃うとどうしても Low-α金属欠乏星 は表面に固体が落ちてきて汚染された星ではないかと考えたくなる。そうすると、惑星を持った星の表面の重元素量はそうでない星より多いというのは、惑星の材料である固体微粒子のうち惑星に馴れなかったものの一部が星の表面に落ちてきた結果と考えれば良い。現在のところ、惑星と星の表面中元素量の関係は鶏と卵の関係と似ていて、そもそも重元素がたくさんある星が惑星を持つのであるという説もある。この議論に決着を付ける究極の観測がある。それは星の振動を解析することで中の元素組成分布を探る方法である。地震波によって地球内部の様子を探るのと同じ原理である。しかし、観測はなかなか難しそうで既存の望遠鏡で観測すればできる問題でもないようだ。

矮小銀河にある Low-α金属欠乏星

実は Low-α金属欠乏星は 矮小銀河にもある。ただし、こちらの星は全て非常に明るい赤色巨星である。矮小銀河は遠くにあるので明るい星しか観測できない。そのなかにα/Feが小さい星が見つかったのだ。 当初、この傾向はIa型超新星が既にFeを供給したガスから星が誕生したからであるという説も出た。しかし、これらの星のMn/Feの組成比はこれまで知られているIa型超新星では説明するには低過ぎる。 そして、 これらの星でも Cr, ZnとFeの比が金属欠乏星の平均より低いことがわかった。 私たちは上で述べた銀河系にあるLow-α星と矮小銀河にあるLow-α星の起源を星の周りに惑星系を考えることで説明することを試みている。つまり、先にも述べたように銀河系にあるLow-α星は主系列にある星で表面対流層が浅いのでその周りにあるであろう惑星系が形成された後の残りかすの固体がたまたま降り積もっただけで元素組成が変化する。しかし、この星が進化して主系列を離れ、膨張するとともに表面対流層が深くなるので汚染の効果が薄まる。従って、比較的表面重力の小さい星にはLow-α星がないことが説明できる。この星が、さらに進化し赤色巨星でも最も明るい段階に達すると今度はその周りにいた惑星の何個かを飲み込んでしまうことになり、いくら表面対流層が深くても、その汚染の影響が元素組成に現れることになる。この段階の星が矮小銀河で観測されたLow-α星であると考える。これが本当だとすると銀河系でも赤色巨星を観測するとLow-α星が見つかるはずであるが、意外にも銀河系の赤色巨星のスペクトルはそんなにたくさん取られていない。このような観測はその意義がはっきりしなかったので行われていなかったのだろうが、今述べた説のテストとして行う必要性が出てきたと私たちは考える。