銀河系で最初に生まれた星

1990年代半ばから重元素量が太陽に比べて数百分の一以下の星を精力的に探して、その元素組成比を割り出す観測が盛んになってきた。この類いの観測は種族III星と呼ばれる重元素を全く持たない星を探し出すことをおそらく第一目標にしている。未だにこの目標は達成されていないようであるが、現在(2005年4月)、太陽の250,000分の1しか鉄を持たない星がすばる望遠鏡を用いた観測で見つかっている。これらの星は銀河系を形作る星の材料になったガスに未だ重元素が含まれていなかった時代に誕生した。重元素は星(超新星)によって供給されるわけだから、こういった観測は最初に生まれた星を探す観測である。この目標が達成されなくても、実は重元素の少ない星の元素組成は超新星や銀河系での星形成史に関する多くの情報を含んでいるということを私たちは議論してきた。

金属欠乏星の重元素組成から分かる超新星での元素合成

重元素を太陽の数100分の1以下しか持たない星が銀河系のハローに存在する。これらの星の元素組成は一つの超新星の影響しか受けていないことを私たちは超新星の理論モデルとの比較から示した(Shigeyama & Tsujimoto 1998)。このことは、一つ超新星爆発が起こるとその超新星爆発によって掃き集められたガスから次の世代の星が誕生し、その星の元素組成は超新星で合成放出された元素の組成を受け継ぐことを強く示唆する。しかし、残念ながら超新星爆発時に合成される鉄やそれより原子番号の大きい元素の量については理論的な予測が未だできない。そのような元素に対しては、逆に観測された元素組成からどのような質量の星の超新星爆発によってどれくらいの量の元素が合成・放出されるのかを見積もることができることを示した(Tsujimoto & Shigeyama 1998)。

金属欠乏星の重元素量から分かる星形成史

1,000近くの数の金属欠乏星の重元素量を測りその重元素量に対する分布を得ることにより、初期の星形成史が分かる。重元素量が時計の役割をするのだ。私たちは一つ一つの超新星が掃き集めたガスから次の世代の星が誕生するという仮説をもとに時間とともにどれくらいの星が形成され重元素が放出されるかを計算した。そして、観測された星形成史を再現することに成功した。銀河系ハローでは成功するのだが、銀河系の円盤に存在するもっと重元素量の多い星の重元素分布をこの仮説から説明するのは難しいと考えられる。この仮説では星形成の効率が低すぎる。星形成の機構は少なくとも2つあると考えられる。 重元素量の少ない星の集団である矮小銀河の星の重元素量分布もこの仮説で説明できそうである。

PopIII星は見つかっていないのか

PopIII星は重元素を全く持たない、銀河系で最初に生まれた星である。しかし、未だ発見されたことにはなっていない。これまで観測された金属欠乏星の重元素量分布は太陽の数千分の一以下しか持たない星が急速に少なくなることを示している。しかし最近、先にも述べたように数十万分の一の星が2つ発見された。この2つの星はPopII(第2世代以降)なのかそれともPopIII(第一世代)なのかが問題となっている。なぜ、重元素を持っていることが観測されているのにPopIIIと言われるのか。それは、もし生まれたときには重元素を持っていなくても星の重力でもって重元素を含んだ星間ガスを降り積もらせることができるからである。私たちはこの過程によって汚染されたPopIIIの赤色巨星の表面のFeの量を見積もりその重元素量分布を導いた(Shigeyama, Tsujimoto, Yoshii 2003)。それによると、重元素量分布はFe/Hが太陽の100万分の1程のところに来てそれより重元素量が多い方にだらだらと減っていく分布を示す。つまり2つの星は汚染されたPopIIIが多く存在するところにあることになる。しかし、その他の重元素量に関しては詳しく議論できない。一方、この2つの星が第一世代の超新星で合成・放出された元素組成を受け継いだPopIIだという主張がある。こちらでは、観測された重元素組成比をかなり良く再現するモデルを提出している。ただ、なぜFe/Hが観測された値になるのかの説明がない。また、PopIII説には連星系の生き残りとするものもある。相手の星はより質量が大きかったため先に進化し、その中で合成された炭素・窒素等の重元素を星風として観測された星の表面に吹き付け汚染する。鉄は考えている軽い星では鉄は合成されないので、鉄の量に関しては私たちの説を採用する。いずれにしても、この分野は重元素量がより少ない星を発見するたびに進展していくと考えられる。